コーヒーで旅する日本/関西編|確かな技術と朗らかな接客が醸し出す、親しみに満ちた憩いの時間。「SUNDAE」

東京ウォーカー(全国版)

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和歌山と大阪のダブルワークで気づいたこと

木目とタイルの風合いを生かしたカウンターは店の顔

ただ、Brooklyn Roasting Companyでカウンターに立つためには、トレーニングを経て試験を通る必要があった。バリスタ競技会のように、時間内に既定の杯数を提供して、風味のレンジを調整して出す技術を求められる。しかも、常時20種以上のなかから、どの豆を使うかは当日までわからないとあって、アドリブの対応力も重要だ。個人店では、現場でとにかく杯数を淹れて腕を磨くというスタイルも多いが、「きっちりトレーニングを積んで、スキルを認められ、技術を持つ人が淹れられる。基準がはっきりしていたことは、私にとってかえってよかった。もちろん、技術はお客さんからは見えないものですが、味への信頼感につながると思うので」と、ここでの経験が、バリスタとして揺るがぬ土台となった。

大阪では来店客も、日々淹れる杯数も多く、修業には格好の場ではあったが、ベースはあくまで地元に置きたいと考えていた木村さん。Brooklyn Roasting Companyに入ってほどなくして、和歌山に新たなロースタリーカフェ・Balder coffeeオープンの報を耳にする。「自家焙煎で、ドリップもエスプレッソも提供する新しい店ができると聞いて、すぐさまバリスタの募集に応募しました。そこからは大阪と和歌山で掛け持ち生活で大変でしたが、同時に異なるロケーションにいることで、お客さんや環境の違いを感じられるのが新鮮で。いい経験になりました」と振り返る。

エスプレッソの抽出のコントロールは、バリスタの腕の見せ所


当時、和歌山では、基礎からトレーニングを積んだバリスタは貴重な存在。木村さんは、Balderで約3年の間、店の看板バリスタとして活躍。前回登場したMARKET WAKAYAMAの仁尾さんによれば、当時から独立開店を待ち望むお客の声も多かったという。実際、このころから開店を視野に入れ、焙煎にも着手したいと考えていたが、「触れる機会がなかなかなくて、店を始める前にコーヒーのすべての工程を経験したかったが、それだけが叶わなかった」。開店への気持ちが切れそうになる時もあったが、背中を押してくれたのは、現在の夫である知弘さんだ。

知弘さんは美容師として県内外で活動し、2021年に和歌山市内にメンズ専門サロン・SUNDAEを開業。同時に、同じビルの階下に入るMARKET WAKAYAMA・仁尾さんにコーヒーやカフェ運営のイロハを学ぶなど、木村さんの開業準備に向けたサポートを惜しまなかった。そうした支えもあり、2024年、知弘さんの店の移転を機に、木村さんも独立。同じ「SUNDAE」の屋号で、1階がコーヒースタンド、2階が美容室というユニークな店が誕生した。「たとえば、カップルで来られて、2階で男性がカットする間、下で女性が待っているというのもよくあります」と、上下階でお客さんの行き来もあるのは、違うジャンルのお店が併設する、ここならではだ。

エスプレッソとミルクが1:1の、スペイン風ラテ・コルタード500円。ビターな香味と共に広がる、甘い余韻と香りが華やか


カウンターに集うみんなが元気になる場所に

「今後は焙煎にも磨きをかけて、店の個性を出していきたい」と木村さん

「実は、開店して1カ月ほどは、まだBalderにいて、姉妹店と思われていたこともあります。お客さんも、“なんでここにいるの?”、“どっちなん?”って(笑)」。慌ただしい開店当初から1年、今ではすっかり界隈の憩いの場となった「SUNDAE」。作り込みすぎない、ちょっとラフな空間は居心地よく、メニューの“のみもん”“たべもん”という表記も、木村さんの人柄さながらに親しみやすい。“のみもん”の柱であるコーヒーは、東京のウエストサイドコーヒーの豆を使用。オリジナルブレンドで淹れる看板のエスプレッソやカプチーノ、スペインのご当地ラテ・コルタードもファンが多い。またドリップには、エチオピア・ナチュラルを使い、浅煎りならではの魅力を伝えている。「ウエストサイドコーヒーは、東京に行った時に訪ねてご縁ができて。浅煎りのきれいな風味が自分好みで、店主さんの人柄もすごく丸くて優しい人。和歌山の人にも紹介したいのでずっと定番にしています」と木村さん。一方“たべもん”のメニューには、昭和スタイルのかたーいプリンをはじめ、ボリュームたっぷりのたまごサンドやあんバタートーストなど、喫茶店感覚の気取らない一品が揃う。エスプレッソと純喫茶メニューの取合せのギャップも魅力の一つだ。

つるんと滑らかな、かたーいプリン550円。玉子のコクのある甘味があとを引く


日々、カウンターに立つ傍ら、同世代のロースターの協力を得て、シェアローストで本格的に焙煎も修業中。「浅煎りを得意とする店で、教わりながら取り組んでいます。目指す浅煎りのイメージは、明るくてジューシー、余韻に甘さがある味わいですが、これが難しい。自分の味を作るのには、焙煎機と仲良くなるのが目下の課題ですね」。すでに、モーニングの時間帯やイベント出店時に、自身の焼いた豆を使っての提供も始め、試行錯誤の成果に少しずつ手ごたえを感じてきている。さらに、「近年、和歌山のコーヒーシーンが盛り上がっているのはありがたいこと。個性的なロースターが周りに点在していて、焙煎を学ぶにはいい環境にいるなと感じます」と、同業の仲間が開く勉強会にも参加。大きな刺激になっている。

それでも、木村さんが拠って立つところはバリスタ。焙煎を学ぶのも、あくまでお客に提供する一杯をコントロールするため。「先々、飽きられないように焙煎に力を入れながら、変わらず誰もが来やすい店でありたい。何より、みんなが心安らぐ、元気が出る場所にすることだけ考えています」

コーヒースタンドと美容室が同じ名前で営業する、ユニークなスタイルも話題に


屋号の「SUNDAE」は、アイスやフルーツを盛り合わせたデザートの名前。コーヒースタンドの上に美容室が乗っかった店の形が、まさにサンデーそのものだ。「違うジャンルのお店がニコイチになっているので、上下階でお客さんの行き来もあります。もちろん老若男女、動物もウェルカム(笑)。幅広い世代に開かれたお店にできれば」。これから客層が広がるほどに、店の彩りは増していく。

木村さんレコメンドのコーヒーショップは「Kamuro Coffee&Scone」

次回、紹介するのは、和歌山県橋本市の「Kamuro Coffee&Scone」。
「店主の土屋瑞貴さん、理央さん夫妻が、週末だけ開店するコーヒーとスコーンのお店。コーヒーは、私が好きな浅煎りが主体で、瑞貴さんとはシェアローストや焙煎の勉強会で一緒になることも多く、昨年はイベントでもコラボしました。高野山にも近く、自然に囲まれたのどかなロケーションも他にない魅力で、地元のフルーツを使った理央さんお手製のスコーンはわざわざ買いに行く価値ありのおいしさです」(木村さん)

【SUNDAEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(シェアロースト)
●抽出/ハンドドリップ(カリタウェーブ)、エスプレッソマシン(VBM)
●焙煎度合い/浅~中煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/なし※イベント出店時のみ

取材・文=田中慶一
撮影=直江泰治

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